島めぐみの俳句絵日記

島めぐみの自作の俳句と絵です。

十薬にまもられし石ひとつ在り

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余呉湖に天女が羽衣をかけたという伝説があります。けれど、そんな伝説にも古戦場にも目もくれず、この湖を歩いて一周してみようと思い立ったのです。出発点の対岸辺りに来た時、急に辺りがひんやりしてきました。見ると、結界がつくられていて中には注連縄を結んだ丸い石が一つ。石の周りは十薬がびっしりと生えていました。「蛇の目石」という名の石で古くからの謂れが立て札に書かれていました。とても存在感のある石でした。

青嵐婆娑羅の愛でし台子かな

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風の爽やかな5月の句会(この句も何年か前のもの)は吟行でした。場所は、柏原の徳源院。京極家の菩提寺として隆盛を誇っていた面影があちらこちらに見られます。京極家と言えば、お市の方の次女のお初と結婚した高次は聞いたことがありましたが、歴史的には道誉とも言われた高氏の方が有名であることを初めて知りました。足利尊氏と共に六波羅に攻め込んだとか・・・政権は混乱していましたが、能、狂言、華道、茶道といった文化が拓けていった時代でもあったようです。そのような時代の中で「婆娑羅」と呼ばれるほどの派手好きが高氏です。「時代の寵児」「流行の先駆け」などという言葉では表せきれないようなエネルギーを持った人だったのでは?と思いを馳せます。すると、大きなガラスケースのなかに台子が。ふと、時代の大きなうねりの中を豪快に駆け抜けていった人物が風になって吹き抜けていったように感じられました。

緑吹く風さわさわと桜の実

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私の大好きな桜子(猫)が天国に旅立ってしまいました。桜の実が赤く色づく頃、初夏の風の気持ちいい朝、ぐったりして、私の膝の上でだんだん冷たくなりました。この初夏の爽やかな風は、桜子からのプレゼントのように思います。世界で一番素敵な猫でした。

ちひろの絵切手になりて五月来る

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飼っていた猫が急死してしまった時の事です。あまりのショックで、茫然としていたのですが・・・出さなければならない封書があって、ポストに投函しようとしたところ、切手が貼ってないのに気づき、「どこまでぼんやりしているのか・・・」とぼやきながら切手を買ったところ、「まあ、ちひろの絵なのね」と、そばにいた人に声をかけられ、心が軽くなったときにできた句です。何でもない一言ですが、とても嬉しかった。絵もとてもかわいらしくて・・・

 

しゃが(漢字が出てきません)の花眼下に展く美濃尾張

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俳句を始めたばかりの頃、俳句の先輩に勧められて行基寺に行ってきました。車で行くのは怖いくらいのうねうねした上り坂を上っていくけれど、それは大変見晴らしの良いところにありました。遠くは一宮のタワーも見え、揖斐川の流れも手に取るようにわかります。ここは交通の要所だったのでしょう。行基さんのころから、ここで狼煙をあげていたのだろうと容易に想像ができるところでした。日かげを好む射干(著莪しゃが)が群生していました。たぶん、行基さんのいた昔から変わらずに。

山笑ういにしへびとの伽藍跡

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岐阜市の城田寺辺りに「平安時代大変栄えていた寺があった」とある本で読みました。車で近くを走っていた時、古墳のようなこんもりとした丘が見えました。春になると山桜が点々とその丘を彩り、実に美しい。個人的にきっとパワースポットだと思って、横目で見ていました。ソメイヨシノの一面の桜ではなく、芽吹き始めた黄緑や緑の合間に咲く桜の方が春を感じます。そんな丘にある時思い切って入ってみました。太い大きな石の柱があるだけでした。ぎりぎりまで民家が密集していましたが、昔はきっと立派な寺院だったのでしょう。自身を切り売りするように多くの荘園などの所有地を売り渡してきたのでしょう。けれど、石柱より奥の山は今だ魑魅魍魎(ちみもうりょう)が住んでいるようでした。美しさは怪しさと同居しているみたいです。

花色に染まる野点の緋毛氈

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もう何年も前の話です。今年のような寂しい花見ではなく、桜が満開の頃、金華山の麓の公園で野点をしました。皆さんちゃんと着物を着て、野点の雰囲気はいやが上にも盛り上がりました。公園には花見の人でいっぱいでした。「一服いかがでしょうか」と声をかけたところ、タイの留学生だという女の人が寄ってくれました。帰国する直前だったそうで、楽しかった日本での思い出を語ってくれました。次にみえたのが中国の方々で、言葉が通じなかったのが残念でしたが、写真を何枚も撮って楽しそうにお茶を飲んでくれました。帰り際、赤い毛氈の上には桜の花びらが隙間ないくらいびっしりと落ちていて、思い出の多い一日でした。